旅を続け、道を歩いていると
すぐ前を真っ黒な蛇がはっている。

追いついてみると
それは小さな女の首だった。
体はなく、
長い黒髪をうねらせて進んでいる。

瞬きもせず
空をぼんやり
見つめている小さな女の首。

これは関わらない方がよかろうと
私はその首を追い越して
先を急ごうとした。
すると女が目だけをこちらに向けて
「もし…」
と呼び止めてくる。

「私は管狐です。
私の住んでいた管が壊れてしまいました。
どうかあなたの竹筒を私にください。
筒がないと私は死んでしまうのです。」
管狐だという女の首は私の竹の水筒をほしがった。

しかし管狐といえば、呪術に使われたりするものと記憶している。
下手に助けぬほうが良かろうと、竹筒はやれないと断った。
しかし管狐は苦しそうに頼んでくる。

「お願いです。
長い間筒の外に出ていると
私は消えてしまう。」

それでも関わってはいけない。
そう思い先を急ごうとした。
すると女は悲しそうに言った。
「仕方ありません。
竹筒でなくてもいいのです。」
管狐はふわりと私の首に優しくまきついたかと思うと
「人間も筒なので。」
そう言って私の口の中にあっという間に入ってきた。

その瞬間、私は意識は管狐へと移り、
旅人という新しい棲み処をみつけることができたことへの安堵に変わった。
良かった。
新しい家が見つかった。
良かった。
ーーーーーーーーー
安堵の気持ちのまま目が覚めた。
私は相変わらず旅人ではあるが、
さっき見た夢の中の旅人とは違う人物であることを今は自覚できる。
また妙に現実感のある夢であった。
まだ旅人の不信感と恐怖、そして管狐の安堵感が混ざり合って
複雑に心の内に残っている。
布団からまだ起き上がる気もなく、
ぼんやりと混乱した感情が静まるのを待ちながら
ふと部屋の中を見回した。
早朝の弱弱しい光が青く障子を染めている。
その弱い光に照らされて、部屋の中で何か黒い帯にのようなものが
するりと陰に隠れた。
まだ自分の中に住んでいるんだという気がした。
それがいつからいるのか、いつまでいるのかわからない。
ただ今はこの夢のことをここに書き記しておく。
Leave a Reply